東京地方裁判所 昭和62年(ワ)10829号 判決 1988年10月28日
原告
下村美子
被告
株式会社スクールメイツ
ほか一名
主文
一 被告らは原告に対し、連帯して金一六一万九〇〇〇円及びこれに対する昭和六二年二月一九日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 原告のその余の請求を棄却する。
三 訴訟費用は五分しその四を原告の負担としその余を被告らの負担とする。
四 この判決は一項に限り仮に執行することができる。
事実
第一当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
1 被告らは原告に対し、連帯して金八九四万九〇〇〇円及びこれに対する昭和六二年二月一九日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
2 訴訟費用は被告らの負担とする。
3 仮執行宣言
二 請求の趣旨に対する答弁
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
第二当事者の主張
一 請求原因
1 事故の発生(以下、次の事故を「本件事故」という。)
(一) 日時 昭和六二年二月一八日午後八時頃
(二) 場所 東京都目黒区緑が丘三丁目三番先路上
(三) 加害車両 普通乗用自動車(以下、「被告車」という。)
右運転者 被告田古島尉行(以下、「被告田古島」という。)
(四) 被害車両 普通乗用自動車メルセデスベンツ二八〇SL(以下、「原告車」という。)
(五) 態様 被告車が駐車中の原告車に追突
2 責任原因
(一) 本件事故は被告田古島の前方注視義務違反の過失により発生した。
(二) 被告株式会社スクールメイツ(以下、「被告会社」という。)は被告田古島の使用者であり、本件事故は同被告が被告会社の業務執行中に発生した。
3 損害
(一) 原告車は原告の所有であつたところ本件事故により破損した。
(二) 損害金額
(1) 修理費 一〇九万九〇〇〇円
(2) 評価損 三一五万〇〇〇〇円
原告車の本件事故前の時価は七一五万円が相当であつたところ、本件事故により修理後の時価評価は四〇〇万円が相当となつたので、評価損は三一五万円である。
(3) 代車料 八五万〇〇〇〇円
一日一万円の八五日分
(4) 逸失利益 二八五万〇〇〇〇円
原告は原告車を昭和六一年一一月二〇日七一五万円で購入したものであるが、同年一二月三一日阿久津征治(以下、「阿久津」という。)に対し、売買価格を一〇〇〇万円とし、契約成立と同時に手付金一〇〇万円を受領し、昭和六二年三月三一日残金九〇〇万円の支払を受けるのと引き換えに同車を引き渡す旨の売買契約を締結していた。ところが本件事故により原告は原告車の引渡しが不可能となり、購入価格七一五万円と売却価格一〇〇〇万円の差額金二八五万円の得べかりし利益を逸失した。
(5) 違約金 一〇〇万〇〇〇〇円
前記のとおり、右契約に基づき原告は手付金を受領していたが、原告車の引渡しが不可能となつたので、阿久津に対し違約金として一〇〇万円の債務を負担した。
よつて、原告は被告らに対し、連帯して損害金合計八九四万九〇〇〇円及びこれに対する本件事故発生の日の後である昭和六二年二月一九日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。
二 請求原因に対する認否
1 請求原因1は認める。
2 同2のうち、(一)は否認する。(二)は認める。
3 同3のうち、(一)及び(二)(1)は認める。(二)(2)及び(3)は否認する。(二)(4)及び(5)は知らない。
三 抗弁
1 過失相殺
原告は原告車を駐車禁止の道路に駐車していたところ、本件事故が発生したものであり、本件事故は原告の違法駐車が原因となつたものであるから、少なくとも一割の過失相殺が認められるべきである。
2 修理費からの減額
被告らは原告車の修理部品を西ドイツから取り寄せ、原告は原告車の修理に右部品を利用することを了解していた。ところが、原告は右部品を利用することなく原告車の修理をしたものであるから、修理費から右部品代三八万七五八〇円を減額すべきである。
四 抗弁に対する認否
抗弁事実は否認する。
第三証拠
証拠は本件記録中の書証目録及び証人等目録記載のとおり。
理由
一 請求原因1(事故の発生)は当事者間に争いがない。
二 請求原因2(責任原因)について判断する。
1 原告本人尋問の結果及び弁論の全趣旨により原告が昭和六二年三月三日に原告車を撮影した写真であると認められる甲第六号証によれば、原告は原告車を道路幅員六メートルで両側に歩道がある道路の車道左側に駐車していたところ、被告車が後方から追突し被告車の後部を損傷したことが認められ、右事実及び弁論の全趣旨によると、被告田古島は前方不注視あるいは運転誤操作の過失により本件事故を発生させたものと認めることができ、右認定を覆すに足りる証拠はない。
2 請求原因2(二)の事実は当事者間に争いがない。
三 請求原因3(損害)について判断する。
1 請求原因3(一)の事実は当事者間に争いがない。
2 そこで同(二)を判断する。
(一) 修理費 一〇九万九〇〇〇円
修理費が右金額であることは当事者間に争いがない。
(二) 評価損 四〇万〇〇〇〇円
原告本人尋問の結果、証人石田実の証言及び右により真正に成立したものと認められる甲第一号証、前掲甲第六号証並びに成立に争いのない甲第七号証によれば、次の事実が認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。
(1) 原告は昭和六一年一〇月一七日にシロクラオート株式会社(以下、「シロクラオート」という。)から原告車を車両価格六七〇万円で購入したこと
(2) 原告車は一九七一年型であり同年型のものとしては保存状態が良かつたこと、もつとも新車の時とは塗装が異なつており、また若干の傷もあつたので原告が購入した際全体の塗装をしたこと(その費用は四五万円)、原告が原告車購入後にマフラーの交換などの修理を本件事故までの間にしていたこと、したがつて原告車には使用年数に応じた外観上及び機能上の傷みは本件事故以前から多少はあつたこと
(3) 原告車は本件事故で後部右側を追突され、右テールランプの破損、リヤバンパー及び右リヤフエンダー等の凹損並びにトランクパネルの歪み等の損傷を生じたこと、そのため右テールランプの交換、リヤバンパー、右リヤフエンダー及びトランクパネル等の板金並びに右各修理に伴う脱着、塗装等の修理を行つたこと、原告車は本件事故によつて車両前部やエンジン系統などの車両内部には損傷は受けなかつたこと
(4) 修理後原告車に素人目にわかるような外観上損傷の痕跡はないこと、走行するについて支障はないこと(原告本人はエンジンのかかりが悪くなつたと供述するが、衝突部位及び損傷の程度に照らすと右支障が本件事故によるものであると認めるには足りない。)
ところで、交通事故により自動車が損傷した場合に、被害車両が修理されても修理による原状回復が不十分な場合には、被害車両の所有者において、事故前の被害車両の価値と事故後の被害車両の価値の差額を評価損として損害賠償請求できるというべきである。そして、原状回復が不十分な場合とは、<1>修理技術上の限界から、顕在的に、自動車の性能、外観等が低下している場合、<2>事故による衝撃あるいは修理したことにより、修理後間もなくは不具合がなくとも経年的に不具合が発生する蓋然性がある場合をいうと解される。
そこで評価損の有無を原告車についてみると、前記のとおり原告車の損傷はリヤバンパー、リヤフエンダー等の凹損等に限られ、修理後も顕在的に自動車の性能、外観が明白に低下しているとは認められず、修理後の原状回復不十分な部分としては板金修理した箇所について潜在的な性能の低下、わずかな外観上の低下、経年的不具合の蓋然性が考えられる程度である。右事情に、前記原告車の価格、修理代、原告車には本件事故以前から使用年数(一五年)に相応した傷みがあつたことを総合すると、原告車が一五年前の自動車で保存状態が同年型のものとしては良好であつたことを考慮しても、本件事故による原告車の評価損は四〇万円を超えるものではないと認めるのが相当である。
なお、証人石田実は本件事故により原告車の価格は半額になつたと証言するが、右証言を裏付ける的確な証拠がなく信用することができず、また原告は修理後の時価評価が四〇〇万円になつたと主張するがこれを認めるに足りる証拠がない。
(三) 代車料 一二万〇〇〇〇円
原告本人尋問の結果及びこれにより真正に成立したものと認められる甲第二号証によれば、原告は原告車を一週間に二、三回ゴルフに行くときなどに使用していたこと、原告は本件事故により原告車を使用できなかつたため昭和六二年二月一九日から同年三月三一日まで(四一日間)ベンツを借りその料金は四〇万円であつたこと、原告は本件事故から約一月後に自動車(BMW)を購入しそれ以後は右自動車を使用したことが認められる。右事実に、前記認定の原告車の修理内容、原告が主張において代車料を一日一万円としていることも考慮すると、本件事故と相当因果関係のある代車料は、一日一万円の費用の一二日分(一月間のうち実際に自動車を使用すると認められる日数)である一二万円が相当と認められる。
(四) 逸失利益、違約金 〇円
原告は昭和六一年一二月三一日阿久津に対し原告車を昭和六二年三月三一日に一〇〇〇万円で引き渡す旨の売買契約を締結していたと主張し、右主張に沿う甲第三号証(覚書)を提出し、証人阿久津及び原告本人も右主張に沿う証言、供述をしている。
しかし、原告本人尋問の結果及びこれにより真正に成立したものと認められる甲第五号証並びに証人阿久津の証言によれば、<1>原告は自動車の販売を仕事としているものではなく原告車を自分で使用するために購入したこと、<2>原告は原告車が気に入つていたこと、<3>原告がシロクラオートから原告車の引渡しを受けたのは昭和六一年一一月二〇日であること、その後もマフラー交換のため原告車をシロクラオートに出していたこと、したがつて原告は同年一二月三一日までに原告車を使用したのはわずかな期間であつたこと、<4>原告は同年一二月三一日の後も原告車を使用していたこと、<5>阿久津は原告車のシロクラオートにおける販売価格を概ね知つていたこと、したがつて売買価格が一〇〇〇万円だとすると原告の購入価格(前記認定のとおり塗装費用を含めて七一五万円)に比較して相当高いことが阿久津においても認識できたはずであること、<6>原告は本件事故直後の被告側との交渉においては甲第三号証の覚書を提出しなかつたこと、以上の事実が認められ(右認定を覆すに足りる証拠はない。)、右各事実に照らせば、阿久津との売買契約は不自然な点が多いといわざるを得ず、甲第三号証並びに証人阿久津及び原告の前記証言及び供述はたやすく信用することができない。他に、原告主張の阿久津との売買契約を認めるに足りる証拠はない。
したがつて、右契約による逸失利益、違約金を損害として認めることはできない。
(五) 合計 一六一万九〇〇〇円
四 抗弁について判断する。
1 抗弁1(過失相殺)
二1で認定した本件事故状況によれば、たとえ本件事故現場道路が駐車禁止であるとしても、車道幅員、原告車の駐車場所からみて、原告において原告車が自動車に追突されることを予見することはできないといわざるを得ないから、本件事故発生につき原告に過失があるとはいえない。したがつて、過失相殺の主張は認めることができない。
2 抗弁2(修理費からの減額)
仮に抗弁2の事実(被告らは原告車の修理部品を西ドイツから取り寄せ、原告は原告車の修理に右部品を利用することを了解していたところ、原告は右部品を利用することなく原告車の修理をした。)があるとしても、右事実のみをもつて原告の被告らに対する損害賠償請求金額が減額される理由はないから被告主張は認めることができない。
四 結論
よつて、原告の請求は、損害金合計一六一万九〇〇〇円及びこれに対する本件事故発生の日の後である昭和六二年二月一九日から支払い済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるので認容し、その余は理由がないので棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条を、仮執行宣言につき同法一九六条をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 中西茂)